霧島冬真は腕が強張り、振り払おうとしたが、より強く掴まれてしまった。
夏目星澄は霧島冬真がまだ逃げようとするのを見て、さらに怒りを募らせた。「いつまで私から逃げ続けるつもり?」
霧島冬真は実際、夏目星澄の手を簡単に振り払うことができたが、力を入れすぎて彼女を傷つけてしまうのを恐れていた。
そのとき、夏目星澄が抱いている子供が大声で泣き出した。「ママ、ママが欲しい、ママ!」
夏目星澄は片手で子供を抱き、もう片手で霧島冬真を離さずに掴んでいた。「まず私について来て、この子のママを探すのを手伝って。」
しかし今、周りは人でいっぱいで、罵声や泣き声が入り乱れ、
警察も対応に追われており、子供を預けて母親を探すどころではなかった。
夏目星澄は状況を見て他の方法を考えるしかなかった。「お名前は何て言うの?ママの電話番号は知ってる?」
「僕は...まおって言います。ママの、ママの電話番号は分からないの、うぅぅ!」
小さな男の子はさらに悲しそうに泣き出した。
夏目星澄は彼を抱きしめながら何度も慰めた。「泣かないで、お姉さんがママを探してあげるから。お巡りさんのところに行ってみない?」
男の子は頷いて、手を伸ばして夏目星澄をより強く抱きしめた。
夏目星澄は突然、自分が失った子供のことを思い出し、胸が痛くなった。
彼女は鼻をすすり、子供を抱いて外に向かい、直接警察署に連れて行くことにした。
もちろん、霧島冬真のことも忘れず、まるで逃げられるのを恐れるかのように、ずっと彼の手をしっかりと握っていた。
霧島冬真は夏目星澄と握り合う手を見つめ、その眼差しが深くなった。
本来なら、彼はここにいるべきではなかった。
しかし、夏目星澄が余りにも恋しかった。
ただ遠くから彼女を一目見て、一緒に年越しをしたかっただけだった。
まさか将棋倒しが起きるとは思わなかった。
その時、夏目星澄は群衆の中心にいて、踏まれそうになっていた。彼はもう我慢できず、飛び出して彼女を守った。
幸い夏目星澄は彼に背を向けていたので、誰だか分からなかった。安全な場所まで連れて行ってから立ち去るつもりだった。
しかし立ち上がる前に、夏目星澄に腕を掴まれ、離してもらえなかった。
以前なら、夏目星澄が自分から手を握ってくれることに、きっと特別な喜びを感じただろう。