夏目星澄はまだ電話中で、自分の母親が霧島冬真と会っていたことなど全く知らなかった。
三浦和靖は言った。「星澄、今回電話したのは、中村英二監督の映画制作に参加してほしいと思ってね。もし興味があれば、まずは脚本を送らせてもらおうと思うんだけど」
夏目星澄は少し驚いた。中村英二監督は国際的にも有名な大物監督だ。自分にどんな資格があって、彼の映画制作に参加できるというのだろう。
「三浦監督、本当に中村監督が私に出演してほしいと?私、演技を始めてまだ間もないし、心配で...」
「もちろん確かだよ。中村監督が君の作品を見て、イメージも雰囲気も作品のキャラクターにぴったりだと思ったから、私に連絡してもらったんだ。オーディションを受けてみない?」
「でも私...」
夏目星澄は母親と霧島冬真の現状を思い出し、急に躊躇してしまった。
「どうしたの?何か問題でもあるの?」
「最近、家族が病気で、付き添いが必要なんです。行けないかもしれません。申し訳ありません、三浦監督」
「そうなんだ。それは残念だね。中村監督の今回の映画は国際的な賞を狙っているって聞いてるんだ。もし出演できれば、君の演技力も知名度も大きく上がると思うんだけど」
夏目星澄も、このチャンスがどれほど貴重なものか分かっていた。
ただ、やっと実の母親と再会できたばかりで、離れたくない気持ちもあった。
「三浦監督、こんな素晴らしい機会を紹介していただき、ありがとうございます。でも本当に離れられないんです...」
「星澄、そう急いで断らないで。もう少しよく考えてみて。家族や林田瑶子さんとも相談してみたら?来られるなら一番いいけど、まずはオーディションを受けてみて、通ったら後のことを考えよう」
夏目星澄もこの貴重な機会を逃したくなかった。「分かりました。考えてみます。早めにお返事させていただきます」
電話を切った後、夏目星澄は母親を探しに戻った。
母親はまだリハビリ中だった。
看護師が付き添っているとはいえ、家族ほど細かい気配りはできないだろう。
このまま行ってしまったら、もし何かあったらどうしよう?
松岡静香は戻ってきた夏目星澄の心配そうな表情を見て、不安になった。「どうしたの、星澄?」
まさか田中雨生のあの畜生が、また嫌がらせに来たんじゃないだろうか?