第428章 針は自分に刺さってこそ痛みを知る

夏目星澄は冷たい表情で警備員に押さえつけられている田中雨生を見つめ、「警察署へ連れて行きなさい」と言った。

松岡芝乃は田中雨生が本当に警察署へ連行されそうになるのを見て、慌てて夏目星澄の前に駆け寄り、「星澄、お父さんにそんなことしないで。もう60歳近いのよ。本当に刑務所に入れられたら、きっとそこで死んでしまうわ」と懇願した。

夏目星澄は冷たい表情で彼女を見て、「さっき私を殺そうとした時は、結果なんて考えなかったでしょう」と言った。

松岡芝乃は夏目星澄の手を取って必死に懇願した。「それだってあなたが私たちを追い詰めすぎたからよ。今や皆が私たちを非難して、ネットで晒し者にして、どこへ行っても指をさされる。もう生きていけないから、一時の感情で…。今回だけ許してくれない?私たちは約束するわ。すぐに潮見市を出て故郷に帰ります。二度と会うことはないわ。それでいいでしょう?」

夏目星澄は松岡芝乃の手を振り払い、冷笑を浮かべながら言った。「針は自分に刺さってはじめて痛みが分かるものよ。あなたたち二人がネットで生配信して、私の噂を広めた時は、私がどんな思いで日々を過ごしていたか考えもしなかったでしょう」

松岡芝乃は青ざめた顔で弁解した。「私たちも人に唆されてあんな馬鹿なことをしてしまったの。謝ります。許してくれるなら、何でもするわ」

しかし夏目星澄は彼女の悔悟を全く信じなかった。「実は、私に対する傷害なら許すことができたかもしれない。でも、あなたたちの母への仕打ちは、必ず清算しなければならない。特にあなた、松岡芝乃。母の実の妹なのに、姉の夫を誘惑して私生児まで作って。それだけじゃない、母の命まで狙った!」

「もし私が現れていなかったら、きっとあなたたちは母を殺していたでしょう。そんな危険な存在を放っておくわけにはいきません。あなたも田中雨生も覚えておきなさい。この世には因果応報があるのよ。報いが来ないのは、その時が来ていないだけ」

松岡芝乃の泣き叫ぶ声を無視して、夏目星澄は振り返ることなく立ち去った。

後は弁護士と警察に任せればいい。

田中雨生たちの生死は、もはや彼女には関係なかった。

夏目星澄は病院に戻り、松岡静香に会うと、今日あった出来事を全て話した。

松岡静香は田中雨生への愛情をとうに失っており、たとえ目の前で死んでも何も感じないだろう。