第19章 浅野武樹との取引

小山千恵子は道中でこの場面を想像していた。

浅野武樹がこのように尋ねてくることは予想していた。

かつての浅野武樹が彼女に何でも従ったのは、二人の間に感情があったからだ。

今は感情がなくなり、その間に憎しみが入り込んでいる。

彼女は浅野武樹の前では、まともなビジネスパートナーにも値しない。

浅野武樹は帝都のビジネス界では、利益至上主義で有名だ。

さらに巧妙な戦略と容赦ない手段で、浅野武樹は一人で浅野家を数千億規模にまで成長させた。

小山千恵子は浅野武樹と策略で戦うことはできず、事実を並べるしかなかった。

「前回の郊外のスタジオでの襲撃事件を、私が仕組んだと思っているのは分かっています。だから、あの暴漢たちを捕まえて、少し懲らしめただけで解放したんでしょう」

浅野武樹は表情を変えずに目の前の女性を見つめ、遮ることはなかった。