桜井美月は悲しそうな表情を浮かべながら、似たような二つの原稿を見せた。
「これは6年前の芸大卒業生のデザイン作品で、小山千恵子がオークションで売り出したウェディングドレスと酷似しています。この作品の指導教官も確認済みです」
小山千恵子は画面に映る二つの原稿を冷ややかな目で見つめた。
そのデザイン画は彼女自身が一筆一筆描いたもので、隣の偽物は、桜井美月がどこから見つけてきた身代わりなのか分からなかった。
出所の怪しいものだけで大衆の目を欺き、デマを流すことができるなんて、小山千恵子は芸能界の深さを改めて認識した。
桜井美月は少し間を置いて、さらに数枚の書類を取り出した。
「こちらがサンダース社の登記情報と、いくつかの取引の詳細です。この会社と小山千恵子との直接的な関係を証明する証拠は一切ありません。社印や署名にも問題があります」
小山千恵子は藤原晴子の名前と情報を見て、眉をひそめた。
桜井美月が自分をどう苦しめようと構わないが、藤原晴子をはじめとする無関係な人々を巻き込みたくなかった。
サンダース社の正体を隠すため、会社登記と法人代表は藤原晴子の名義になっていた。
当時の秘密保持措置が、今では自分を縛る足かせとなっていた。
小山千恵子はどうやって自分が本物だと証明すればいいのか……
桜井美月は姿勢を正し、目を赤くして、かすかに震える声で話し始めた。
「私の弁護士がさらなる証拠収集と調査を進めています。もし小山千恵子がサンダース社の身分を詐称していたことが証明されれば、オークションで得た2000万円と、法的に認められる全ての賠償を請求します!」
コメント欄が爆発的な反応で溢れかえるのを見て、桜井美月は内心得意げだった。
彼女には分かっていた。小山千恵子に足りないのはお金だということを!
今、小山千恵子を追い詰めるには、岩崎さんを利用するだけでは効果がない。彼女のデザイン画と手持ちの金で脅すほうが、もっと効果的かもしれない。
名誉を失墜した小山千恵子が、どんな波風を立てられるか見ものだ!
桜井美月はティッシュで涙を拭うふりをして、もはや隠しきれない笑みを隠した。
浅野武樹はいつの間にかソファに座り、深刻な表情で何かを考え込んでいる小山千恵子を見て、冷たく笑った。
「怖くなったか?」