録音のことについて、小山千恵子はもう表に出て説明することはしなかった。世論の矢面に立つと、余計なことを言って事態を悪化させかねない。
それに、化学療法の副作用で生きる気力も失いそうだった。毎日のほとんどを目まいと嘔吐に費やし、わずかな時間しか意識がはっきりしなかった。
小山千恵子は、糸の切れた凧のように、大衆の視界から消えていった。
療養院にて。
祖父の容態は安定していて、小山千恵子はしばらくぶりにほっと胸をなでおろした。
スケッチブックとタブレットを抱えたまま、痩せこけた体を大きな椅子に縮こまらせ、何かを描いたり書いたりしていた。
しかし、もうウェディングドレスのデザインには手を付けなかった。
身体的にも、精神的にも、もう描けなくなっていた。
夜になり、小山千恵子はいつものように、祖父を一階の庭園に連れて行き、就寝前の散歩をしていた。