第34章 離婚を拒む浅野武樹

桜井美月の目に一瞬の悪意が閃き、表情は狂気じみて歪んでいた。

小山千恵子が本当に罠にかかった!

実家のあの部屋の全てを、彼女はもう準備していた。

小山千恵子が来さえすれば、彼女を社会的に抹殺してやる!

小山千恵子と桜井美月は浅野実家で会う約束をし、藤原晴子が車で送り届けた。

小山千恵子はマスクをつけ、完全武装で浅野家の中庭に入った。

庭には一面に百合の花が咲き誇り、清らかで無害な白さだった。

小山千恵子は喉が痒くなり、足早に邸宅に入った。

茶室は空っぽで、小山千恵子は表情を引き締めた。

今日は浅野旦那様が実家にいない。

使用人たちは小山千恵子を邸宅の二階に案内すると、次々と下がっていった。

広大な邸宅は静寂に包まれ、小山千恵子はさらに警戒を強めた。

目の前の主寝室のドアを見つめ、心が締め付けられるように痛んだ。

かつてここは、小山千恵子と浅野武樹が実家に戻った時によく泊まった部屋だった。

彼女はまだ覚えている、昔のドアは防音性が悪かったことを。

だから彼女と浅野武樹が戯れる時は、いつも口を押さえて、浅野旦那様に聞こえないように気を付けていた。

でも浅野武樹はわざと彼女をからかうのが好きで……

小山千恵子は歯を食いしばり、考えてはいけない光景を振り払った。

今のドアは、重厚な無垢材のブラックゴールドの材質になっていた。

中で何が起きても、もう一切音が漏れることはないだろう。

小山千恵子がドアを開けると、真っ暗だった。

桜井美月は部屋にいなかった。

部屋は電気がついておらず、窓の外の月明かりと、中庭の暖かな黄色い灯りだけが窓から差し込んでいた。

その光は、小山千恵子が部屋の中を見渡すのに十分だった。

彼女は心が痛むあまり目の前が暗くなり、瞬時に目に涙が溜まった。

部屋から彼女の持ち物は完全に消え去っていた。

小山千恵子は驚かなかった。

結局、浅野武樹は彼女に会うことすら望んでいないのだから、まして彼女の持ち物なんて。

代わりに、桜井美月の私物が置かれていた。

そのピンク色の数々が、小山千恵子の目を刺すように痛めつけた。

彼女はベッドの足元を見つめ、唇を震わせ、また下唇を噛んだ。

浅野武樹が脱ぎ捨てた、いつも着ているネイビーのシルクパジャマが、ベッドの端に無造作に置かれていた。