浅野家の警備員が階段を駆け上がり、転がり落ちた車椅子を必死に支えた。
桜井美月は階段に柔らかく倒れ込み、急いで上がってきた浅野武樹に抱きとめられた。
「どこか怪我した?」
男の緊張した表情と声色が、小山千恵子の目を刺すように痛めつけた。
傍から見ると、高慢で冷酷な浅野武樹が、人を気遣うときはこんな様子なのだと。
でも彼の瞳の中のその優しさは、もう彼女のものではなかった。
桜井美月は浅野武樹の袖をしっかりと掴み、今にも泣き出しそうな様子で、しかし目は上の方にいる小山千恵子を見つめながら、すすり泣きながら口を開いた。
「千恵子さん、ごめんなさい。私のことを怒らないでください。お金でも家でも、何でも差し上げます。でも私は...私はあなたたちの結婚に介入していません!」
小山千恵子は高みから目の前の光景を見下ろし、心はすでに干からびていて、唇に浮かぶ寒々しい笑みを抑えられなかった。