小山千恵子は浅野実家を離れ、藤原晴子の車で療養院に戻り、すぐに眠りについた。
目が覚めると、療養院の周りで騒ぎを起こす人はもういなかった。
ネット上の話題も収まり、すっかり消えていた。
まるで何も起こらなかったかのようだった。
桜井美月が彼女を刺激しないのなら、彼女はその存在を無視することができた。
残された日々は少ないのだから、無関係な人と争う必要はない。
母の死の真相を探り、手元のデザイン依頼を処理する、これらすべてに時間が足りないと感じていた。
小山千恵子は久しぶりの静けさの中、午前中ずっとデザイン画を描いていた。
昼食後、祖父が昼寝をしている間、若い看護師が顔を出して千恵子を呼び出した。
「小山お嬢さん、お客様です。」
千恵子は不思議に思いながら、受付に向かった。