第36章 嘘をつくな、私は分かる

小山千恵子は浅野実家を離れ、藤原晴子の車で療養院に戻り、すぐに眠りについた。

目が覚めると、療養院の周りで騒ぎを起こす人はもういなかった。

ネット上の話題も収まり、すっかり消えていた。

まるで何も起こらなかったかのようだった。

桜井美月が彼女を刺激しないのなら、彼女はその存在を無視することができた。

残された日々は少ないのだから、無関係な人と争う必要はない。

母の死の真相を探り、手元のデザイン依頼を処理する、これらすべてに時間が足りないと感じていた。

小山千恵子は久しぶりの静けさの中、午前中ずっとデザイン画を描いていた。

昼食後、祖父が昼寝をしている間、若い看護師が顔を出して千恵子を呼び出した。

「小山お嬢さん、お客様です。」

千恵子は不思議に思いながら、受付に向かった。