第37章 私はあなたを自ら戻らせる

小山千恵子は広い革張りのソファーに弱々しく横たわり、目の前がぼんやりとしていた。

浅野武樹の背の高い姿が彼女に背を向け、うつむいたまま、シャツのボタンを一つずつ留めていた。

「お金は寺田が振り込むから、この録音を二度と目にすることがないようにしろ」

浅野武樹は冷たい言葉で脅した。

彼の目的はこの録音証拠を買い取ることだった。

桜井美月は浅野家の養女であり、彼女を刑務所に入れるわけにはいかなかった。

彼女のためでなくても、浅野家の名誉を汚すわけにはいかなかった。

小山千恵子は心が枯れ果てたように、冷笑を浮かべながら、ゆっくりと襟元を引き締めた。

「私はこれで手を引くつもりだったのに」

浅野武樹の手が止まり、小山千恵子を振り返った。目には危険な光が宿っていた。

「つまり、脅しているのか?」

小山千恵子は服を整え、疲れた足で立ち上がった。

「浅野社長、私はただ自分を守っているだけです」

浅野武樹の目には怒りが満ちていたが、黙ったままだった。

自分を守る?

あのような事故を経験して、桜井美月も自分を守っていただけだ。

小山千恵子は浅野武樹の目に浮かぶ軽蔑と疑いを見て、思い切って口を開いた。

「事を収めたいなら、いいわ。すぐに離婚して」

浅野武樹は冷笑を浮かべ、ゆっくりとカフスボタンを留めながら、話題を変えた。

「今、療養院に住んでいるのか?」

小山千恵子の頭の中で警報が鳴り響き、急いで立ち上がったが、足がふらつき、壁を支えてようやく体を支えることができた。

「何をするつもり?おじいちゃんに手を出さないで!」

小山千恵子が怒りに震える小動物のような様子を見て、浅野武樹は口角を上げ、冷たい笑みを浮かべた。

「小山千恵子、私は一度も中腹別荘から出ることを許可していない」

小山千恵子は拳を握りしめ、怒りで笑いが出た。

冗談じゃない。

離婚を求めたのは彼で、離婚を拒むのも彼だった。

彼女は以前、浅野武樹がこんなに矛盾した人間だとは知らなかった。

小山千恵子はドアの方へ向かい、出ようとした。「浅野武樹、あなたは私の自由を制限できない」

浅野武樹は面白そうに笑い、手を上げて降参のポーズをとった。

「いいだろう。強制はしない。お前が自ら戻ってくるようにしてやる」

小山千恵子の心に強い不安が湧き上がった。