小山千恵子は広い革張りのソファーに弱々しく横たわり、目の前がぼんやりとしていた。
浅野武樹の背の高い姿が彼女に背を向け、うつむいたまま、シャツのボタンを一つずつ留めていた。
「お金は寺田が振り込むから、この録音を二度と目にすることがないようにしろ」
浅野武樹は冷たい言葉で脅した。
彼の目的はこの録音証拠を買い取ることだった。
桜井美月は浅野家の養女であり、彼女を刑務所に入れるわけにはいかなかった。
彼女のためでなくても、浅野家の名誉を汚すわけにはいかなかった。
小山千恵子は心が枯れ果てたように、冷笑を浮かべながら、ゆっくりと襟元を引き締めた。
「私はこれで手を引くつもりだったのに」
浅野武樹の手が止まり、小山千恵子を振り返った。目には危険な光が宿っていた。
「つまり、脅しているのか?」
小山千恵子は服を整え、疲れた足で立ち上がった。
「浅野社長、私はただ自分を守っているだけです」
浅野武樹の目には怒りが満ちていたが、黙ったままだった。
自分を守る?
あのような事故を経験して、桜井美月も自分を守っていただけだ。
小山千恵子は浅野武樹の目に浮かぶ軽蔑と疑いを見て、思い切って口を開いた。
「事を収めたいなら、いいわ。すぐに離婚して」
浅野武樹は冷笑を浮かべ、ゆっくりとカフスボタンを留めながら、話題を変えた。
「今、療養院に住んでいるのか?」
小山千恵子の頭の中で警報が鳴り響き、急いで立ち上がったが、足がふらつき、壁を支えてようやく体を支えることができた。
「何をするつもり?おじいちゃんに手を出さないで!」
小山千恵子が怒りに震える小動物のような様子を見て、浅野武樹は口角を上げ、冷たい笑みを浮かべた。
「小山千恵子、私は一度も中腹別荘から出ることを許可していない」
小山千恵子は拳を握りしめ、怒りで笑いが出た。
冗談じゃない。
離婚を求めたのは彼で、離婚を拒むのも彼だった。
彼女は以前、浅野武樹がこんなに矛盾した人間だとは知らなかった。
小山千恵子はドアの方へ向かい、出ようとした。「浅野武樹、あなたは私の自由を制限できない」
浅野武樹は面白そうに笑い、手を上げて降参のポーズをとった。
「いいだろう。強制はしない。お前が自ら戻ってくるようにしてやる」
小山千恵子の心に強い不安が湧き上がった。