深夜。
小山千恵子は鋭い痛みで目を覚ました。
目を開けると真っ暗で、周りには医療機器のランプだけが点滅していた。
顔には酸素マスク、体には様々なチューブが繋がれていた。
手術の麻酔が切れ、体中が痛みで悲鳴を上げていた。
ただの熱が、どうしてこんなことに……
初めて、小山千恵子は死がこんなにも近くにあることを実感した。
いや、二度目だ。
浅野武樹と結婚したばかりの頃、島でバカンスを過ごした時のこと。
小山千恵子は暑さに弱かったが、遊び好きだった。
重度の熱中症で、熱射病で命を落としかけた。
その時、浅野武樹は完全防護服を着てでもICUで彼女を見守っていた。
「俺の目の前で、一瞬たりとも離れられない」
小山千恵子は浅野武樹が焦って言ったその言葉を覚えていた。
「千恵子ちゃん、死ぬなら俺の側で死んでくれ!」
あの出来事以来、浅野武樹は彼女を過度に保護するようになり、食事も服も、遊びも日用品も、全て専門の人間に検査させた。
小山千恵子は強硬と甘えを織り交ぜ、怒りと甘えで数ヶ月かけてようやく浅野武樹を諦めさせた。
小山千恵子は目に熱いものを感じ、胸が痛んだ。
今となっては、彼女が死んでも浅野武樹は何も感じないだろう。
彼はそれすら知ることもないだろう。
体の痛みは骨の髄まで染み渡り、小山千恵子はぼんやりとしたまま夜明けを迎え、シーツは冷や汗で半分以上濡れていた。
今回の高熱で小山千恵子は多臓器不全になりかけ、病状は急激に悪化した。
千葉家の医療チームは、小山千恵子の状態が安定次第、直ちに化学療法を開始し、がんの進行を抑制するよう要求した。
小山千恵子には断る選択肢がなかった。
今日まで、彼女はまだ時間があると思い込んでいた。
小山千恵子がウェディングドレスを売って手に入れた2000万円は、実際にはそれほど長く持たない。
彼女は心の中で自嘲的に笑った。
死にかけているのに、まだお金のことを心配しているなんて思いもしなかった。
死ぬことはできても、訳も分からず死ぬわけにはいかない。
母のように。
数日後、小山千恵子の体調は七、八分回復し、一般病棟に移された。
千葉隆弘と藤原晴子はオフィスを療養院付属病院に移し、二人で交代で患者の世話をした。
小山千恵子は申し訳なく思い、治療への決意を固めた。