小山千恵子は見知らぬ病室に横たわり、眠れずにいた。
湖畔クリニックは繁華街から離れており、夜はより一層静かだった。
窓の外は湖全体を見下ろせる高台だった。
月の光が波立つ湖面に降り注ぎ、耳を澄ませば、風が草木を揺らす音が聞こえた。
確かに療養には最適な場所だった。
しかし、小山千恵子は眠れなかった。
彼女の右目が絶えずピクピクと痙攣していた。
そのとき、クリニックの洋館の入り口から、車の音とドアを閉める音が聞こえてきた。
小山千恵子は心臓が喉まで飛び出しそうになった。
こんな遅い時間に、ここに来られるのは、浅野武樹以外に誰がいるだろうか?
夜も更けて、医療チームは別棟で休んでいた。
藤原晴子は一日中疲れており、すでに帰らせていた。
小山千恵子は考える暇もなく、熊谷玲子のフルーツナイフを枕の下に隠した。