浅野武樹は心の中の怒りを抑えながら、横を見た。
若く端正な男の横顔が目に入った。
千葉隆弘だ!
三人が楽しそうに談笑する声が閉まったドアの向こうに消えていくのを見て、浅野武樹は背筋が寒くなった。
小山千恵子が離婚のことだけで恨みを持っているのならまだしも。
彼女は千葉家と黒川家とこれほど親密な関係を持っているとは!
浅野武樹は忘れられなかった。浅野家の株価が不安定だった重要な時期に、海都市のいくつかの会社が、彼らの些細な事業や株式を機に乗じて奪っていったことを。
彼に恨みを持つのはまだしも、浅野家の事業に手を出すなら、容赦はしない。
寺田通は数万円する酒を二本持って、浅野武樹の後ろを歩きながら、突然空気が凍りついたのを感じた。
個室の中にいたのは奥様だ。
他の人は見えなかったが、浅野社長の表情を見ただけで、部屋の中にいる人物が並大抵の人物ではないことが分かった。