第83章 浅野武樹は黒川家に手が出せない

千葉隆弘は少し困ったような笑みを浮かべた。「私が知り合いというわけではなくて、父の方の縁です。子供の頃から黒川家とは少し付き合いがあって。」

小山千恵子は彼を見つめ、腕を組んで椅子に寄りかかった。「少し付き合いがある？」

誰もが知っているように、黒川家は帝都で最も控えめな旧家門閥だ。黒川家と関係を持てる者は、きっと単なる付き合い程度ではないはずだ。

千葉隆弘は慎重に思い出した。「当時、黒川旦那様の病気の時、父が治療法をいくつか提案したんです。おかげで何年か延命できたと思います。でも結局、黒川旦那様は亡くなられました。」

小山千恵子は納得した。

つまり千葉家は黒川家の恩人のような存在だったのだ。

千葉隆弘は何かを思い出したように、少し不機嫌そうな声で続けた。

「それに、今回老人ホームの件がこんなに早く決まったのも、兄が黒川家の力を借りたからだと聞いています。浅野武樹のやつ、本当に手ごわい相手です。浅野家の帝都での影響力は、私たちが想像している以上に根強いんです。」

小山千恵子は突然理解した。浅野武樹が黒川家の資産状況を調べていた理由は、老人ホームの買収に黒川家が関わっていることを突き止めたからだったのだ。

小山千恵子は少し考え込んだ。

今朝、泉の別荘まで送ってくれた時の浅野武樹の険しい表情も納得できた。

帝都の誰もが知っているように、泉の別荘は黒川家の領地だ。

千葉家が黒川家の助力で老人ホームを取り戻したばかりの時に、彼女が突然黒川家の領地に現れた。

浅野武樹でも、疑いを持つのは当然だろう。

千葉隆弘は好奇心に満ちた目で尋ねた。「私のことはいいとして、どうして黒川おばあさんから依頼を受けることになったんですか？」

小山千恵子は事実を話し、すぐに身を乗り出して興味深そうに尋ねた。「黒川旦那様と黒川奥様のことについて、他に何か知っていることはありませんか？何でもいいんです。重要なインスピレーションが必要なんです。」

「そうですね...」千葉隆弘は眉をひそめた。

「そうだ、兄が以前言っていたんですが、黒川旦那様は黒川奥様をとても大切にされていて、病気が重くなってからも、毎朝庭に出て黒川奥様のためにバラを摘んでいたそうです。」

小山千恵子の心が動いた。

黒川旦那様が生前、毎日バラを摘んで奥様に贈っていたとは。