小山千恵子は自分の持ち物を簡単に整理したが、立ち上がらなかった。
「黒川奥様のお時間を頂き、ありがとうございます。帰る前に、理由だけは知りたいのですが」
橋本博文は渋々立ち上がり、また座り直すべきか迷っていた。
彼女は『新入生』の番組から、小山千恵子が頑固な性格だと知っていた。
おそらく死ぬときでさえ、納得してから死にたいタイプだろう。
黒川奥様の視線が小山千恵子に向けられ、次第に鋭くなっていった。
彼女は橋本博文を見て言った。「橋本さん、申し訳ありませんが、外の部屋でお待ちいただけますか。この小山お嬢さんに少しお聞きしたいことがありまして」
橋本博文が部屋から消えると、小山千恵子は毅然とした目で黒川奥様を見つめた。
もし黒川奥様が既に人選を決めていたのなら、彼女の立場上、わざわざ二度足を運ばせることはないはずだ。
結局のところ、黒川家の泉の別荘は誰でも入れる場所ではないのだから。
しかし、来てみれば数眼で判断され、二三言で追い返されるとは、小山千恵子には理解も納得もできなかった。
黒川奥様は小山千恵子の細い腕を見下ろし、そして彼女の目を見た。
「小山お嬢さん、ご自身の体調について気にかけていらっしゃいますか?」
小山千恵子は体を震わせ、瞳に驚きの色が浮かんだ。
化粧で病気がちな様子を隠し、身なりも整えたはずなのに。
どうして黒川奥様は一目で体調が悪いことが分かったのだろう?
黒川奥様は彼女の驚きを見逃さず、年老いた両手を重ね合わせた。
「小山お嬢さんの病気は治療が難しそうですね。他のことに心を砕くより、治療に専念なさった方がよろしいかと」
がんを患っているという事実は、やはり黒川奥様の目を欺くことはできなかったようだ。
今この場で、訪問の目的をすべて打ち明けるべきだろうか?
小山千恵子は慎重に考え、まだその時ではないと感じた。
彼女は軽く微笑んで言った。「さすがですね。確かに重病を患っています。でも、この段階まで来ると、かえって世俗的なことから解放され、デザインに専念できるんです。もしよろしければ、一度試していただけませんか。私の作品がお気に召さなければ、お断りいただいて結構です」
これは小山千恵子が入室してから最も長く話した言葉だった。
黒川奥様がデザイナーを決めているかどうかは、もはや議論する必要もない。