室内は真っ暗で、バスルームの温かな黄色い明かりが部屋の様子を辛うじて照らしていた。
浅野武樹の髪先からは水滴が垂れ、黒髪を無造作に後ろへ撫で上げ、その仕草には野性味が漂っていた。
水滴は鋭い顔の輪郭に沿って落ち、幅広い肩へと滴り、豊かな胸筋を伝い、筋の通った腹部を通って、深い腹筋の溝へと消えていった。
小山千恵子は慌てて視線を逸らし、服を掴んで胸の前に当てた。
彼女は顔を赤らめ、慌てているうちに自分の胸元が露わになっていることにも気付かなかった。
「私、あなたがいるなんて知らなかったわ!」
窓の外の雨音が耳に満ちていて、バスルームに人がいることなど気付くはずもなかった!
それに浅野武樹は主寝室で寝るはずじゃなかったの……
小山千恵子は俯いたまま彼を見ようとせず、急いで出口へ向かったが、大きな影が行く手を遮った。