室内は真っ暗で、バスルームの温かな黄色い明かりが部屋の様子を辛うじて照らしていた。
浅野武樹の髪先からは水滴が垂れ、黒髪を無造作に後ろへ撫で上げ、その仕草には野性味が漂っていた。
水滴は鋭い顔の輪郭に沿って落ち、幅広い肩へと滴り、豊かな胸筋を伝い、筋の通った腹部を通って、深い腹筋の溝へと消えていった。
小山千恵子は慌てて視線を逸らし、服を掴んで胸の前に当てた。
彼女は顔を赤らめ、慌てているうちに自分の胸元が露わになっていることにも気付かなかった。
「私、あなたがいるなんて知らなかったわ!」
窓の外の雨音が耳に満ちていて、バスルームに人がいることなど気付くはずもなかった!
それに浅野武樹は主寝室で寝るはずじゃなかったの……
小山千恵子は俯いたまま彼を見ようとせず、急いで出口へ向かったが、大きな影が行く手を遮った。
「その姿で、どこへ行くつもりだ?」
浅野武樹の瞳には欲望が渦巻き、下を向くと女性が腕で隠した胸元、彼の喉を渇かせる光景が目に入った。
小山千恵子は男性の喉仏の動きを見逃さず、漆黒の瞳に宿る明らかな欲望も無視できなかった。
彼女は恥ずかしさと怒りで、ドレスを掴んでしっかりと身を覆った。
「浅野武樹、私たちはもう離婚したわ。あなたには——」
小山千恵子の後半の言葉は、強引な唇によって封じ込められた。
男性特有の木の香りと、酒の甘く冴えた香りが、まるで侵略のように彼女の体内に入り込み、攻め込んでいった。
小山千恵子は男性の腕の中に閉じ込められ、灼熱の温度に体が震えた。
胸の前で守るように置いた両手は動かすことができず、小山千恵子は大きく抵抗することもできなかった。さらに火に油を注ぐことを恐れたからだ。
浅野武樹のベッドでの実力は、彼女があまりにもよく知りすぎていた。
男は下にいる柔らかな女性にキスをしながら、心からの満足感が溢れそうだった。
これまでの親密な接触の中で、小山千恵子がこれほど素直なことは珍しかった。
長らく満たされていなかった独占欲がこの瞬間に充足され、浅野武樹の瞳の奥に赤みが差した。
小山千恵子は息苦しくなり、激しいキスの合間に小さく喘ぎながら酸素を求めた。
窒息寸前になって、浅野武樹の薄い唇は少し離れたものの、まだ彼女の唇に愛おしそうに触れていた。
「やめて……」