第98章 浅野武樹、私を解放して

桜井美月の頭の中が轟音と共に鳴り響き、耳鳴りが襲ってきた。

彼女の頭は真っ白になり、このような証拠の前では、もう一言も弁解できなかった。

この調査結果は、彼女が小山千恵子を陥れようとしたことを証明しただけでなく、警察も過去の事件を再調査する可能性があった！

最悪の場合、誹謗中傷で実刑判決を受けて、自分が刑務所に入ることになるかもしれない！

壇上で呆然として、もう弁解の言葉を発しない桜井美月を見て、観客たちは面白がって見物していた。

「誰が投稿したんだろう？謎の大物が、一言も言わずに証拠を出すなんて、こういう暴露の仕方が好きだな」

「この内容は相当な価値がある。この病状報告書を作るには少なくとも3000万円はかかるはずだ」

「署名が浅野武樹になってるけど...マジかよ、浅野家の内部抗争？お金持ちの家庭の争いって面白いな」

記者たちの声はさらに騒がしくなり、マイクを壇上に向けて、桜井美月の反応を待っていた。

しかし、彼女が反応しようがしまいが、彼らにとってはどうでもよかった。ただ後のヘッドラインを盛り上げるためだけだった。

事ここに至っては、桜井美月にはもう挽回の機会はないだろう。

小山千恵子は深いため息をつき、心は静かだった。

桜井美月とのこの騒動も、ここまでだった。

彼女は復讐を果たした喜びを感じるべきだし、かつて自分を踏みつけにして悪事を働いた人が崖から落ちていく様を見る快感も味わうべきだった。

しかし彼女の心には静けさだけが残り、わずかな後悔と寂しさだけが残っていた。

桜井美月の出現と攻撃は、彼女と浅野武樹の長年の愛情を打ち砕いてしまった。

これは取り返しのつかないものだった。彼女と浅野武樹も、終わりを迎えていた。

記者と観客が舞台に上がろうとして騒動が起きそうになった時、会場の警備員がようやく現れ、桜井美月を楽屋に連れて行った。

小山千恵子は混乱の中で立ち上がり、帽子をきちんと被り直した。

最後に、よろめきながら慌てて楽屋に消えていく桜井美月を見つめ、その場を去った。

彼女は桜井美月に最後の体面を保たせてあげようとも考えた。

しかし今となっては、それらのことも重要ではなくなっていた。

非常口から出ようとした時、走ってきた記者が小山千恵子の胸に激しくぶつかった。