藤原晴子は慌てて手探りでティッシュを探し出し、心臓が飛び出しそうだった。
小山千恵子は喉が苦く、口の中に血の甘みを感じながら、手を拭いて、かすれた声で藤原晴子を慰めることも忘れなかった。
「大丈夫、他に何も感じないから…」
藤原晴子は彼女に水を投げ渡し、直接車を道路に乗せた。冷静を装っていたが、声には気づかれないような泣き声が混じっていた。
「水を飲んで、休んで」
小山千恵子は素直に口を閉ざし、血を拭き取り、ゆっくりと水を飲んで、助手席に寄りかかって目を閉じた。
最近は基本的に夜も眠れず、精神は持ちこたえているものの、体が先に限界を迎えそうだった。
藤原晴子の赤いジープ・ラングラーは弦を放たれた矢のように環状道路を走り、彼女は息をするのも怖かった。小山千恵子に何かあったらと心配で。
さらに先日、浅野家の株価暴落の機会を利用して、ようやく浅野武樹と離婚協議書にサインし、今日は桜井美月の陥れた一件も決着をつけた。
小山千恵子はこれまで気力だけで持ちこたえていたが、心の中で張り詰めていた糸が緩んだ途端、体に問題が出始めた。
車内は誰も話さず、着信音が静寂を破るまで続いた。
小山千恵子は携帯を取り出し、療養院からの着信を見て、右目が激しく痙攣した。
彼女は姿勢を正し、素早く電話に出て、スピーカーフォンにした。
「もしもし?」
「小山お嬢さん、小山旦那様の容態が悪化し、脳出血を発症して、現在救急室で処置中です」
小山千恵子は目の前が真っ暗になり、耳鳴りがして、体がふらついた。
たった数時間離れただけなのに、どうしてこんなタイミングで!
小山千恵子は喉の血の味を飲み込み、必死に声を落ち着かせた。
「分かりました、すぐ行きます」
電話が切れる音が鳴り、藤原晴子は頭皮がぞわぞわし、目が赤くなった。
彼女は知っていた。小山千恵子がずっと決心がつかなかったことを。小山旦那様にリスクの高いリハビリ手術をさせるべきかどうか。
でもこの決断は小山千恵子にとって、どうして簡単にできるだろうか?
藤原晴子は動揺や弱さを見せまいとした。小山千恵子はすべてのプレッシャーを背負っている人だから、余計な重荷をかけたくなかった。
車は方向を変え、療養院へと猛スピードで向かった。
藤原晴子は助手席を一瞥したが、驚愕した。