第108章 妻を守る義務

小山千恵子は一瞬固まった。

彼女は浅野武樹に、実の父親を探していることを一度も話したことがなかった。

前回大和帝国で、シシさんから初めてその写真の破片を受け取り、その後大野武志に薬を盛られて危険な目に遭いそうになった時でさえ、浅野武樹には一言も漏らさなかった。

その時は、浅野武樹に知られたら、実父を探す望みを断たれてしまうのではないかと恐れていた。

しかし今は、この件について全てを打ち明けるべきかどうか、確信が持てなかった。

特に藤田おばさんの死の真相がまだはっきりしていない今は。

電話の向こうの千葉隆弘は一瞬間を置いて、声が冷たくなった。

「浅野武樹ですか?千恵子さん、なぜ彼と一緒にいるんですか。」

小山千恵子は二、三言で宥めて、電話を切った。

顔を上げると、浅野武樹もじっと彼女を見つめていた。その目には何とも言えない怒りと、わずかな期待が含まれていた。