小山千恵子は隠れた場所で体を丸めて、頭の中は混乱していた。
彼女は分かっていた。最善の策は放っておくことだと。
シシさんは既に彼女の退路を用意してくれていた。72号のコンテナに乗りさえすれば、この罪深い場所から安全に脱出できるはずだった。
そして浅野武樹は、桜井美月の手に落ちさえすれば、黒川芽衣がどれほど残酷でも命の心配はないはずだった。
しかし、彼女の心の中で何かが裂けていくような感覚があった。
浅野武樹がやって来た時、このクルーズ船で何が待ち受けているのかを知っていたはずだ。
桜井美月の部屋のドアがバンと開き、千恵子は桜井美月と黒川芽衣が部屋を出て、何かを話しているのが聞こえた。
「まだ目が覚めないの?どれくらい打ち込んだの?」
「二本打ったから、目が覚めても夜になるわ。急がなくていいわ。先にスパでも行って、何か食べましょう。夜は、たっぷり楽しめるわよ」