第119章 死んでも遺体を見たい

浅野武樹の予想通り、デッキに足を踏み入れた途端、傭兵の一団に包囲されてしまった。

鷹のような目で素早く周囲を見渡すと、七、八人ほどいた。まだ対処できる数だ。

ただし、大野武志の姿は見当たらなかった。

浅野武樹は息を潜め、傭兵たちの動きを観察した。

突進してきた二人を両拳で撃退し、さらに身を躍らせて、三人の包囲攻撃から逃れた。

デッキにいた人々は四散し、船室から遠くこちらの様子を窺っていた。

天から降り立ったかのような黒髪の男は余裕綽々としており、力を温存しているようだった。

「あの男は何者だ?顔がよく見えない」

「あれは武志の部下だろう?一人で来るとは、随分と度胸があるな」

「あいつの腕前も相当なもんだ。どちらが不利になるかわからないぞ」

数回の攻防の末、体格の良い傭兵たちは既に息が上がり、動きが鈍くなっていた。

浅野武樹はその隙を突き、急所を二発殴打し、銀光が閃いた瞬間、数人が傷を押さえて倒れた。

傭兵のリーダーは心中で驚いた。

この若者は一体何者なのか?

八人を相手に戦って、まったく不利な状況に陥っていない。

誰かが遠くに立つ黒髪の男を認識したようだった。

「くそっ、思い出した。あいつは帝都の浅野武樹だ。小山敏夫の教え子だ」

傭兵のリーダーは舌打ちした。小山敏夫の名は彼らの父親の世代では名将として鳴り響いており、その教え子たちは皆一匹狼だった。

小山敏夫が直接指導した者とあっては、手強いはずだ。

浅野武樹は形勢を見極め、もはや戦いを続けることなく、混乱する群衆の中に姿を消した。

傭兵のリーダーは慌てた表情を見せ「追え!」と叫んだ。

デッキの騒ぎを知った時、桜井美月はまだ鏡の前で化粧をしていた。

それを聞くと眉筆を投げ出し、ぱっと立ち上がった。「岩崎さんが来たの?」

黒川芽衣はタバコを吸いながら、目を上げて一瞥し、嘲るような口調で言った。「何を興奮してるの、見てみなさい、その情けない様子」

桜井美月は表情を硬くし、おずおずと座り直した。

「状況を話しなさい」

部下が一部始終を報告すると、桜井美月は拳を握りしめた。「追跡を失った?行って探しなさい、大野武志の前に見つけるのよ!」

小山千恵子は次々と聞こえてくる急ぎ足の音を耳にした。どうやら複数の集団が船内を捜索しているようだった。