小山千恵子の顔は紙のように青ざめ、点滴を打っている手は力なく横たわっていた。
浅野武樹はその冷たい小さな手を握り締めた。「病室に連れて行け」
浅野武樹はベッドの横を歩きながら、掌の中で震える冷たい指先を握り続けた。
小山千恵子は無表情に天井を見つめ、手を振り払うことさえ忘れていた。
隆弘の表情から、おじいちゃんが二度と目を覚まさないかもしれないことを悟った。
おじいちゃんと最後に会った時、何を話したんだっけ……
看護師たちは手際よくベッドを病室に運び入れ、固定し、点滴の速度を確認してから素早く退室した。
その間ずっと、小山千恵子は木のように硬直したまま、何かを考え込んでいた。透明な涙が目に溜まり、赤くなった目尻から髪の生え際へと流れ落ちた。
あまりにも脆く見えたため、浅野武樹は彼女に触れることさえ躊躇った。
病室のドアが静かに閉まり、浅野武樹は何か言うべきだと感じたが、言葉が出てこなかった。
いつもは冷静沈着な自分が、こんなにも戸惑うなんて。
「千恵子、すまない。この間、一人でこんな思いをさせて……」
小山千恵子の瞳が僅かに動き、虚ろな目が浅野武樹に向けられた。
待ち望んでいた謝罪の言葉を聞いたが、もう心には何の波紋も立たなかった。
干上がった心の海に、もはや波紋が立つはずもない。
「浅野社長、用事がなければお帰りください。おそらく……」
小山千恵子は喉が渇き、唇も乾いていた。二度咳をしてから続けた。
「……次にお会いするのは、区役所になるでしょう」
それが最後の対面になるはずだった。
浅野武樹の心は締め付けられるように痛んだ。
彼は呼吸を整え、椅子を引き寄せてベッドの傍らに座り、以前のように自然に小山千恵子の点滴を打っている手を取った。
彼女は相変わらず寒がりだった。
「千恵子、桜井美月のことは、私が目を曇らされていた。離婚のことは、もう一度考え直さないか」
小山千恵子は喉が詰まった。しっかりと握られた手は温かく、点滴の薬液が血管に流れ込む冷たさを和らげた。
浅野武樹の目に宿る優しさは、久しく見ていなかった。
その瞬間、小山千恵子は錯覚を覚えた。まるで過去の出来事が全て消え去り、目の前の浅野武樹は、かつて彼女を掌の上で大切にしていた男性のようだった。