第124章 千恵子はまだ彼を愛している

桜井美月はまた驚いたふりをして言った。「岩崎さん、まだわからないの?」

黒川芽衣は横で目を転がし、咳払いをした。「美月、もう無駄話はやめなさい」

彼女は桜井美月を睨みつけ、浅野武樹の前に歩み寄り、煙を吐き出した。

「あなたは手札を失ったけど、まだ厄介な存在ね。あなたが変な考えを起こさないように…」

黒川芽衣はビーズのハンドバッグからリモコンを取り出し、桜井美月も浅野遥の書斎の監視カメラの映像をテレビ画面に映した。

「誠意を示すチャンスをあげるわ。写真を撮って、記事を出して。そうすれば、浅野遥の書斎の爆弾を解除するわ」

浅野武樹の目は一層冷たくなった。三十年近く生きてきて、こんなふうに頭上から脅されたことは一度もなかった。

彼の冷たい視線は、画面の中で何も知らずに机に座って老眼鏡をかけて本を読んでいる浅野遥に注がれた。

母の件について、まだ真相を聞き出せていない。

浅野武樹の心は複雑な感情で満ちていた。様々な感情が押し寄せてきた。

浅野遥は母に対して申し訳ないことをしたかもしれないが、彼の命を奪うつもりは一度もなかった。

黒川芽衣は待ちきれないようで、手を軽く押すと、机の下の赤いシグナルランプが急に点滅し始めた。

「浅野武樹、私の忍耐にも限界があるわ。そんなに長く待てない。あなたにはまだ…」

彼女はリモコンの数字を見た。「…1分よ」

浅野武樹の瞳孔が縮み、薄い唇が一文字に結ばれた。

黒川芽衣の手段を選ばない性格は、彼の心にはっきりと分かっていた。

これは取引ではなく、強要だった。

海上の日の出はいつも壮大で、オレンジ色の太陽が水平線から顔を出すと、小山千恵子は遠くから近づいてくるヘリコプターの轟音を聞いた。

計画通り、小山千恵子はドアの前で待機し、中に入ってくる援軍を待っていた。

万トン級の客船として、重要人物や貨物の出入りは日常茶飯事で、乗客たちもヘリコプターを珍しく思わなかった。

しかし、この数日間は船内が平穏ではなく、すぐに騒ぎが起きた。

遠くから犬の吠え声が聞こえ、小山千恵子の心は締め付けられた。

大野武志の部下が来たとすれば、また避けられない激しい戦いになるだろう。

合図の音が鳴り、ドアの向こうから声が低く響いた。

「千恵子、いるか?」