第124章 千恵子はまだ彼を愛している

桜井美月はまた驚いたふりをして言った。「岩崎さん、まだわからないの?」

黒川芽衣は横で目を転がし、咳払いをした。「美月、もう無駄話はやめなさい」

彼女は桜井美月を睨みつけ、浅野武樹の前に歩み寄り、煙を吐き出した。

「あなたは手札を失ったけど、まだ厄介な存在ね。あなたが変な考えを起こさないように…」

黒川芽衣はビーズのハンドバッグからリモコンを取り出し、桜井美月も浅野遥の書斎の監視カメラの映像をテレビ画面に映した。

「誠意を示すチャンスをあげるわ。写真を撮って、記事を出して。そうすれば、浅野遥の書斎の爆弾を解除するわ」

浅野武樹の目は一層冷たくなった。三十年近く生きてきて、こんなふうに頭上から脅されたことは一度もなかった。

彼の冷たい視線は、画面の中で何も知らずに机に座って老眼鏡をかけて本を読んでいる浅野遥に注がれた。