白野部長は引き出しをパタンと閉め、額の汗を拭った。
「桜井さん……どうなさるおつもりですか?」
桜井美月は白野部長のオフィスのソファに座ったまま、テーブルの上の茶器を弄びながら余裕そうな様子を見せていた。
「聞いた話では、ある種の感染症は骨髄提供の条件に合わないそうですね。」
白野部長は心臓が縮む思いで、思わず動揺を見せた。
「その方が帝都に到着してから、条件不適合の報告書を出すということですか?」
桜井美月は指を振り、蛇のように毒々しい表情を浮かべた。
「今や小山千恵子側はかなり警戒していて、一枚の報告書では彼らを騙せないでしょう。それに、人選は千葉隆弘側が行ったので、私たちには入院させる権利もありません。」
彼女は立ち上がり、白野部長の椅子の後ろに回って、両手で回転椅子の背もたれを掴んだ。「あの可哀想なドナーに、少し犠牲になってもらうしかないわね。」
白野部長は大きく驚き、手に持っていた魔法瓶を落としそうになった。
桜井美月という女は、本当に悪魔なのか?
これまでは血液サンプルの取り替えや、報告書の偽造、小山千恵子の監視などを命じられただけだった。
血液がんは元々治りにくい病気で、たとえこれらのことで病状が悪化したとしても、それは小山千恵子の運が悪かったということで、白野の責任には及ばないはずだった。
しかし桜井美月の言う意味は、規則違反の操作を行い、罪のない人を病気にさせろということだ!
桜井美月は密かに力を込め、白野部長の耳元で囁いた。「それとも、できないとでも?」
白野部長は驚愕の表情を浮かべ、言葉が出なかった。
桜井美月は笑い声を立て、ドアの方へ歩き出した。「私は今や黒川家を後ろ盾にしているの。浅野家のちっぽけな権力なんて、もう私には何の影響もないわ。今のあなたには、私の言うことを聞く以外に選択肢はないのよ。」
柔らかな言葉の中に、とげのような脅しが込められていた。白野先生は額に汗を浮かべ、震える手から携帯電話を落としてしまった。
彼にも、もう後戻りはできなかった。
廊下の薄暗い入り口で、小山千恵子は腕の点滴針を押さえながら、驚きの目を見開いていた。
適合するドナーが見つかったと知って以来、彼女の最初の反応は白野部長のところで待ち伏せすることだった。
まさか、今日本当に待ち伏せが成功するとは!