浅野武樹は料理人に近づき、目には冷酷さが宿っていたが、手は少し震えていた。
「大野武志があのクルーズ船にいるって言うのか?」
なるほど、全国を探し回っても大野武志の足取りが掴めなかったわけだ。
あんな目に遭わせたのに、浅野武樹は死んだと思っていたが、まさか場所を変えて君臨していたとは。
浅野武樹は手元の必要な物を素早く片付けながら、冷静に料理人を尋問した。
「シシさんはなぜ船にいるんだ?」
料理人は困った表情を浮かべた。「大和帝国の商売は、そう簡単じゃありません。虎穴のような場所でも、顧客が行けと言えば、彼女も断れないんです。」
浅野武樹は風のように事務所を飛び出した。
あの時、小山千恵子を大和帝国のこの濁った水に巻き込むべきではなかった!
寺田通は何度か電話して車を手配したが、プライベートジェットの航路で行き詰まった。