黒川芽衣はナプキンで口を拭うと、慎重に切り出した。「お兄様、ずっと外出を控えめにされていましたが、今はメディアや名家の目が墓地に向いていますから、姿を見せるのは難しいのではないでしょうか」
黒川啓太は箸を置き、冷たい眼差しで傍らの女性を一瞥すると、急に室温が下がったかのように、黒川芽衣も身震いした。
もう誰も声を出す勇気はなかった。
彼がどこに行くか、今でも誰も口を挟む権利はなかった。
黒川啓太はナプキンを置き、湖畔の住まいへ戻った。
書斎に入ると、躊躇いながら引き出しを開け、黄ばんだ一枚の写真を取り出した。
写真の中の女性は優しく微笑み、妊婦のお腹を抱えていた。
顔色は良くなかったが、笑顔は穏やかで幸せそうだった。
当時の自分はまだ若く、黒川家の最年少の家長として、意気揚々としていた。帝都で思いのままに振る舞い、眉間には誇りと凛々しさが漂っていた。