第146章 すべてが遅すぎた

浅野武樹は言い終わると、藤原晴子に一歩一歩近づき、骨壺を見ようとする様子だった。

藤原晴子は恐怖に満ちた表情で言った。「浅野武樹、あなた狂ったの?千恵子をあれだけ苦しめて、死んでしまった今も彼女を放っておけないの?」

浅野武樹は藤原晴子が抱えている骨壺に手を伸ばそうとした。

いや、絶対に偽物だ。この中に入っているのは、彼女の遺灰のはずがない!

参列者たちが次々と驚きの声を上げる中、寺田通は素早く浅野武樹を止めた。

「浅野社長、落ち着いてください。それは相応しくありません。」

浅野武樹は体が熱くなり、硬直したまま手を引っ込めたが、目は藤原晴子を見つめ続けていた。

藤原晴子は助けを求めるように寺田通を見た。もしかして、彼らの計画がばれてしまったのだろうか?

寺田通は浅野武樹を落ち着かせながら、気づかれないように首を横に振った。

藤原晴子は安心したが、遠くから誰かが慌てて駆けてくるのが見えた。

千葉隆弘は着陸するとすぐに墓地に駆けつけたが、到着するなり浅野武樹が葬儀で騒ぎを起こしているのを目にした。

彼は藤原晴子と浅野武樹の間に立ち、険しい表情を浮かべた。

「故人を安らかに眠らせたくないのでしたら、すぐにお帰りください。」

その時、浅野武樹は名家の体面も気にせず、千葉隆弘の襟を掴み、険悪な表情で言った。

「これが千恵子の遺灰だと証明しろ。さもなければ、お前たち全員に代償を払わせる。」

彼自身わかっていた。自分は狂ってなどいない。

小山千恵子と愛し合ってきた長年の間、彼は自分と千恵子の間には他の誰にもない特別なつながりがあると確信していた。

そのつながりから来る直感が彼に告げていた。小山千恵子は死んでなどいない、死ぬはずがないと!

千葉隆弘も目を赤くしながら、頷いて、かすかな声で鋭く言った。「いいでしょう。遺灰の鑑定を依頼します。もし本当に千恵子のものだったら、あなたは墓の前で跪いて、彼女と小山旦那様に謝罪してください!」

浅野武樹は一瞬表情が凍りついた。遺体は火葬の前後で鑑定できることを忘れていた。

一瞬、その結果を見るのが怖くなった。

もし本当に千恵子の遺灰だったら、もう取り返しがつかなくなる……

すぐに、墓園の職員が小山千恵子の遺灰鑑定報告書を持ってきた。

浅野武樹は受け取り、震える手でそれを開いた。