小山千恵子は紅霞寺を離れ、投資企画書を持って中腹別荘へ向かった。
デザイナーズスタジオへの投資について、彼女は早くから出資を考えていたが、最近は忙しすぎて来る時間がなかった。
小山千恵子が応接室に入ると、藤原社長がすでに中で待っていた。
藤原社長の態度は以前よりもさらに恭しく、目には感慨の色が満ちていた。
「まさかあなたが小山お嬢さんだったとは。」
小山千恵子は頷いた。
今回は本当の身分で来ていた。
以前、黒川啓太が萩原さんという偽の身分を用意してくれたのは、安全のためだけだった。
今は浅野武樹と話がついたので、偽の身分を使う意味もなくなった。
結局のところ、祖父の姓は、できることなら変えたくなかった。
小山千恵子は企画書を広げ、自分の注釈とサインを示した。
「藤原社長、私は30%の出資を決めました。具体的な契約書の作成は、私の注釈に従って修正をお願いします。」
藤原社長は喜色を浮かべた。「小山お嬢さまのご厚意に感謝いたします。これであなたがこのスタジオの筆頭株主となられました。」
小山千恵子の手が止まった。「なぜですか?私の持ち株は3分の1にも満たないはずですが。」
藤原社長はもう一つの株式証書を取り出し、小山千恵子に渡した。
「このデザインスタジオが設立された当初から、浅野さまは10%の株式を確保されており、永久的な所有権はあなたにあります。合わせると、筆頭株主となるのです。」
小山千恵子はその書類を受け取り、複雑な思いに駆られた。
彼女はすでに知っていた。浅野武樹が中腹別荘を展示センターとスタジオに改装したのは、彼女にそういう夢があったからに過ぎない。
この3年間、毎年大量の資金が投入され、確かに質の高いデザイン人材を次々と輩出し、何人かは国際的にも名声を得ている。浅野武樹のこの投資は成功したと言える。
小山千恵子は自分の名前を見て、胸が締め付けられた。
あの時の浅野武樹は、どんな思いでいたのだろう……
藤原社長は慎重に口を開いた。「浅野さまはこちらの運営には一切関与されず、もしあなたがこちらの業務を引き継ぎたいとお考えでしたら、いつでも引き継ぎができるようにとおっしゃっていました。」