第167章 大きくなったらパパに会える

浅野武樹はゆっくりとお粥を飲み込み、静かにスプーンを置くと、声がやや掠れた。

「分かっている」

珍しく緊張して手のひらが熱くなった。

紅霞寺の庭で、小山千恵子が淡々と「久しぶり」と言った時から、浅野武樹は知っていた。小山千恵子は死んでいなかった。彼女が戻ってきたのだ。

しかし、彼が想像していた小山千恵子は、もう二度と戻ってこないだろう。

たとえ彼女が本当に死んでいなかったとしても、彼は彼女を少しでも所有しようとは思わなかった。さらに、彼女が自分を救いに来るとは思ってもみなかった。

結局のところ、現実の小山千恵子は、いつか彼の元を去るのだから。

そして、三年間彼に寄り添った幻影は、永遠に彼の元を離れることはない……

病室は静寂に包まれていた。

毎日小山千恵子に話したいことがたくさんあったのに、実際に彼女と向き合うと、浅野武樹の頭は真っ白になり、喉に何かが詰まったようだった。

小山千恵子は気にする様子もなく、優しく微笑んで目を伏せた。「分かってくれたなら良かった。だから、あの薬はもう飲まないで」

浅野武樹は暗い眼差しで、何も答えなかった。

もし小山千恵子が彼の側にいてくれるなら、一生あんな薬には手を出さないのに。

しかし、あれほどの過ちを犯した自分に、彼女に何かを求める資格などない。

小山千恵子は立ち上がり、テーブルの食器を片付け始めた。「もう大丈夫そうだから、私は帰るわ。ちゃんと治療を受けて、変なことは考えないで」

浅野武樹は無意識に小山千恵子の細い手首を掴んだが、引き止める言葉は出てこなかった。「……ありがとう」

小山千恵子は手首を見つめ、次に浅野武樹を見て、さりげなく二度ほど手を振り払おうとした。

「浅野武樹、礼には及びません。これで客船での命の恩は返せたでしょう」

客船での出来事を思い出し、危険な思い出も甘美な思い出も、小山千恵子の頬は突然熱くなり、手首を引っ込めた。

小山千恵子がゴミを持って出て行こうとするのを見て、浅野武樹は低い声で話し始めた。

「千恵子、過去のことは私が悪かった。本当に私の側にいて、贖罪の機会をくれないか?」

小山千恵子は足を止め、白い手をドアノブに置いて、軽く笑った。

「浅野武樹、私たちはそれぞれの道を行きましょう。私がまだ生きているということを知っただけでは、足りないの?」