浅野武樹はゆっくりとお粥を飲み込み、静かにスプーンを置くと、声がやや掠れた。
「分かっている」
珍しく緊張して手のひらが熱くなった。
紅霞寺の庭で、小山千恵子が淡々と「久しぶり」と言った時から、浅野武樹は知っていた。小山千恵子は死んでいなかった。彼女が戻ってきたのだ。
しかし、彼が想像していた小山千恵子は、もう二度と戻ってこないだろう。
たとえ彼女が本当に死んでいなかったとしても、彼は彼女を少しでも所有しようとは思わなかった。さらに、彼女が自分を救いに来るとは思ってもみなかった。
結局のところ、現実の小山千恵子は、いつか彼の元を去るのだから。
そして、三年間彼に寄り添った幻影は、永遠に彼の元を離れることはない……
病室は静寂に包まれていた。
毎日小山千恵子に話したいことがたくさんあったのに、実際に彼女と向き合うと、浅野武樹の頭は真っ白になり、喉に何かが詰まったようだった。