第165章 私の千恵子はもう死んでいる

藤原晴子は驚いて、小山千恵子の腕を掴んだ。「千恵子、あなたは必要ないわ……」

小山千恵子は頷いて、なだめるように言った。「ええ、分かってます。私には彼を助ける義務なんてないわ」

藤原晴子は追及した。「じゃあ、なぜまだ?」

小山千恵子は優子の背中を優しく叩きながら、自嘲的な笑みを浮かべて、低い声で話し始めた。

「浅野武樹は私にこう言ったことがあります。生きていてこそ、罪を償える。死は、なんて楽な逃げ道なのかと」

生きていてこそ罪を償える、そして清明に生きていてこそ、極限の後悔を味わえる。

小山千恵子は輝く瞳で病室の中の蒼白い顔の男を見つめた。

かつて世界の頂点に誇り高く立っていた人が、今は溺れかけている人のようだった。

自分が作り出した幻想の中で溺れ死にそうになっている。