藤原晴子は驚いて、小山千恵子の腕を掴んだ。「千恵子、あなたは必要ないわ……」
小山千恵子は頷いて、なだめるように言った。「ええ、分かってます。私には彼を助ける義務なんてないわ」
藤原晴子は追及した。「じゃあ、なぜまだ?」
小山千恵子は優子の背中を優しく叩きながら、自嘲的な笑みを浮かべて、低い声で話し始めた。
「浅野武樹は私にこう言ったことがあります。生きていてこそ、罪を償える。死は、なんて楽な逃げ道なのかと」
生きていてこそ罪を償える、そして清明に生きていてこそ、極限の後悔を味わえる。
小山千恵子は輝く瞳で病室の中の蒼白い顔の男を見つめた。
かつて世界の頂点に誇り高く立っていた人が、今は溺れかけている人のようだった。
自分が作り出した幻想の中で溺れ死にそうになっている。