第164章 私は治療に協力できます

小山千恵子の心が沈んだ。

彼女はもう知っていた。救急室に横たわっているのは浅野武樹だと。

本来なら、優子を連れてここを離れるべきだった。

むしろ、もし一日早く隣の病気の叔父さんが浅野武樹だと知っていたら、優子を連れて即座に立ち去っていただろう!

でも今となっては、もう遅いかもしれない。

優子は天真爛漫で、人と親しくなるのが早い。今、救急室に横たわっている浅野武樹は、すでに彼女の小さな心を揺さぶるには十分だった。

優子に指を引っ張られて病院の玄関へと向かう中、小山千恵子の足取りも自然と早くなった。

この二度の偶然の出会いで、浅野武樹はまだ正常そうに見えたのに、どうして突然倒れてしまったのだろう……

「千恵子?優子?どうしてここに?」

小山千恵子が振り返ると、驚きの表情を浮かべる藤原晴子と寺田通と目が合った。

二人も明らかに夜中に急に起こされ、すぐに駆けつけてきたようだった。

三人は顔を見合わせ、すぐに全てを理解した。

寺田通は藤原晴子の背中を慰めるように叩いた。「ここで彼女に付き添っていて。私が中に入って様子を見てくる。」

藤原晴子は優子を見下ろし、また小山千恵子を見て、目に申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「千恵子、ごめんなさい。私と寺田は知っていたの、浅野武樹も紅霞寺にいることを。あなたを困らせたくなくて、すぐには言えなかったの。」

小山千恵子はため息をつき、目を伏せた。「もういいわ。来るべきものは来るものよ。優子が彼の失神を発見して、病院に運んだの。でも……どうしてこんなに重症になってしまったの?」

藤原晴子はコートのポケットに手を入れ、長いため息をついて、低い声で話し始めた。

「寺田の話では、あなたが去った後、浅野武樹の状態が悪くなって、よく……幻覚を見るようになったそうよ。」

「幻覚?」小山千恵子は驚きを隠せなかった。

驚きの中にも、意外ではなかった。

だから浅野武樹が何度か彼女を見かけた時、あんな変な様子だったのか。驚きもせず、言葉も発しなかった。

「ええ、最初は薬の副作用だったんだけど、後になってどうしても治らなくなってしまったの。浅野遥と寺田は浅野家の世話で手一杯で。浅野武樹は入院治療を拒否して、やむを得ず新井先生を見つけて、紅霞寺に入ることになったの。」