第163章 彼は必ず狂ってしまった

沈黙が月光に満ちた庭に広がっていった。

小山千恵子の耳には自分の心臓の鼓動が轟くように響いていた。

三年以上、千日以上の月日が流れ、かつて深く愛した男が今、数メートル先に慎重に立っていた。

浅野武樹の髪はもはやきちんと整えられてはおらず、寂しげで無造作な様子だった。目の下には常に青黒い隈があり、疲れた表情を見せ、長年のトレーニングで作り上げた逆三角形の体型も、今では少し痩せこけて見えた。

浅野武樹は...急に随分と老けたように見えた。

小山千恵子の頭は真っ白で、何を言うべきか考える余裕もなかった。

理性は早くこの場所から、男の熱い視線から逃げるように命じていたが、本能は足を動かすことを許さなかった。

浅野武樹もまた言葉を発することはなく、熱い眼差しを小山千恵子に向けたまま、まるで夢中になったように、まばたきすら惜しむように見つめていた。

彼はあまりにも長く小山千恵子を見ていなかったため、まばたきをすれば彼女がどこかへ消えてしまうのではないかと恐れていた。

浅野武樹の心には、不思議と絶望的な快感が湧き上がってきた。

これまでの三年間、たとえ最も絶望的で、薬の量が最も多かった時でさえ、小山千恵子の幻影は彼と一度も言葉を交わすことはなかった。

今日、小山千恵子は彼に「久しぶり」と言った。

彼はきっと狂ってしまったか、狂いかけているのだろう。

しかし、再び小山千恵子の声が聞けるなら、完全に狂ってしまってもいい。

夜風が吹き、浅野武樹の白い綿麻のシャツを揺らした。彼はめまいを感じ、長い手で回廊の柱を掴んだ。

目を開けると、小山千恵子はもういなくなっていた。

浅野武樹は息を荒げながら、庭を急いで見回した。「千恵子?千恵子?」

彼女を見つけることができなかった。

浅野武樹は魂を失ったように家に入り、落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりし、額には冷や汗が滲んでいた。

黒い瞳は何度も庭を見つめ、小山千恵子が現れた入り口を凝視し続けながら、視線は草むらにも向けられていた。

彼はあの薬の箱をあの草むらに投げ捨てたのだ。

あの薬を見つけて飲めば、小山千恵子は戻ってくるのではないか!

浅野武樹は奥歯を強く噛みしめ、両腕で壁を支えながら震えていた。

彼の最後の理性は、切れかかった糸のようだった。