第177章 刑務所に行ったのは浅野遥

藤原晴子は冷笑を浮かべながら言った。「はっ、そうですね。浅野社長は多忙で、私のような小物なんて覚えていないでしょうね」

浅野武樹の顔は真っ青で、不快そうな目の中に戸惑いの色が混ざっていた。

藤原晴子は彼とこれ以上話す気はなく、ベッドサイドのコールボタンを押した。医師と看護師が入ってくると、そのまま病室を出た。

他人なのだから、これだけでも十分すぎるほどだ!

もし彼があんなに生気のない状態で横たわっていなければ、千恵子も帝都を離れて、子供を連れて新国に帰る必要はなかったかもしれない……

藤原晴子は携帯を取り出し、寺田通に電話をかけた。

「浅野武樹が目を覚ましたわ。でも私が誰だか分からないなんて!」

藤原晴子はまだ腹が立っていた。自分は小山千恵子の親友で、今は寺田通の彼女なのに、浅野武樹のこんな無礼な態度。

寺田通も一瞬驚き、心配そうに言った。「浅野社長の脳に問題があるんじゃ……」

彼は特に言葉の問題を感じていなかったが、藤原晴子は思わず吹き出した。「目は覚めたわ。早く来て。きっと彼はあなたに聞きたいことがたくさんあるはずよ。私は彼と直接対峙したくないの」

寺田通は優しく微笑んだ。「分かった。すぐ行くよ。待っていて」

寺田通は株主総会の途中で電話を受け、すぐに会議を終了させ、黒のカリナンに乗って第一病院に向かった。

廊下の角を曲がると、藤原晴子が腕を組んで病室の前に立ち、誰とも目を合わせたくないように俯いているのが見えた。

寺田通は早足で近づき、優しく藤原晴子を抱きしめた。「ごめん、待たせたね」

藤原晴子は素早く寺田通を抱き返し、頬が赤くなった。

付き合う前は、寺田通を木の人形のように感じていた。

しばらく付き合ってみると、まるで深い城府を持つ老狐のように思え、避けていた。

藤原晴子は心の中で長いため息をついた。

ああ、優しい木の人形が、まさか自分の心を射止めるとは。

藤原晴子は寺田通の広い胸から静かに身を離した。「早く中に入って様子を見てきて。医師の検査では特に問題はなく、回復は順調だって」

寺田通は藤原晴子の頭にキスをした。「分かった。少し待っていて、家まで送るから」

病室の中で、浅野武樹は紙のように青白い顔をして、ベッドに寄りかかり、深い黒い瞳で窓の外を見つめ、何かを考えているようだった。

寺田通は内心不安だった。