浅野武樹は目を細めた。
心の中で彼女を三秒ほど褒めたばかりなのに、すぐに手のひらを返された。
目の前の女は確かに計算高く、手ごわい相手に違いない。
小山千恵子は浅野武樹の表情の変化に気づいたが、特に怒っている様子はなかった。
浅野武樹の怒った姿は、彼女は数え切れないほど見てきた。今の様子は、せいぜい少し不満そうな程度だ。
小山千恵子は真剣な表情で言った。「浅野社長、結局のところ、あなたが失った記憶の主役は私たちですから。私の条件は、あなたの記憶を取り戻すお手伝いをすることです。それは無理な要求ではないでしょう?」
浅野武樹の心は複雑な感情で満ちていた。
白黒はっきりした離婚協議書は、浅野グループの法務部が直接起草し審査したものだ。間違いようがない。
つまり、彼と小山千恵子は、確かに結婚していたということだ。