浅野武樹は寝室に入り、ドアを閉め、バルコニーの端まで歩いて行き、長い指の間にタバコを挟んで火をつけた。
彼は快適なリクライニングチェアに座り、目を閉じて眉間をさすった。
違う、どこもおかしい。
浅野実家も彼に違和感を与えていた。
大病から回復して療養中の時、多くの記憶が曖昧で、覚えていないことがあれば、何とかして確かめようとした。
慎重に、チャンスを掴む、これが彼のビジネス界での一貫した姿勢だった。
しかし小山千恵子についての記憶に関しては、何も不自然なところは見つからず、ただの帝都に住んでいた普通の人に過ぎなかった。
しかし今回の彼女との出会い、そしてカフェでのチェキ写真が、すべてを変えてしまった。
彼の過去は、一体どのように小山千恵子と絡み合っていたのか?
大きな秘密の一端が、すでに明らかになりつつあるようだった。