第197章 すぐに妻と呼ぶ

小山千恵子は顔を上げて寺田通を見ると、一瞬驚いて、笑顔で手を振った。

「忘れたの?私はここの株主よ」

そう言って、小山千恵子は見慣れた黒のカリナンに目を向けた。「寺田補佐、あなたは?ここで何をしているの?」

この様子では、浅野武樹がレーシングチームに来たのかしら?

浅野家の晩餐会で、あんなにはっきりと断ったのに……

寺田通は深く息を吸って、やっと表情を整えることができ、無理に笑顔を作った。

「桜井美月さんです。投資家として視察に招かれています」

小山千恵子の表情が変わり、急いで車庫へ向かった。

投資の視察?桜井美月が何を分かるというの?

彼女が来るのには、一つの可能性しかない。それは何か問題を起こすつもりだということ。

受付に着くと、小山千恵子は少し焦って尋ねた。「桜井美月はどこ?」