小山千恵子は顔を上げて寺田通を見ると、一瞬驚いて、笑顔で手を振った。
「忘れたの?私はここの株主よ」
そう言って、小山千恵子は見慣れた黒のカリナンに目を向けた。「寺田補佐、あなたは?ここで何をしているの?」
この様子では、浅野武樹がレーシングチームに来たのかしら?
浅野家の晩餐会で、あんなにはっきりと断ったのに……
寺田通は深く息を吸って、やっと表情を整えることができ、無理に笑顔を作った。
「桜井美月さんです。投資家として視察に招かれています」
小山千恵子の表情が変わり、急いで車庫へ向かった。
投資の視察?桜井美月が何を分かるというの?
彼女が来るのには、一つの可能性しかない。それは何か問題を起こすつもりだということ。
受付に着くと、小山千恵子は少し焦って尋ねた。「桜井美月はどこ?」