小山千恵子は穏やかに微笑んで、少しも意外に思わなかった。
浅野遥が賛成票を投じるなら、それこそ奇妙なことだったはずだ。
桜井美月に居座らせて、自分の地位を奪わせるという考えは、きっと浅野遥というこの老狐が提案したものだ。
確かに彼には帝都で雲をも手のひらで転がすほどの勢力と手段があり、黒を白と言いくるめることもできる。
しかし、運命の輪は巡るものだ。
かつての彼女は、浅野家という大樹に寄生する浮き草に過ぎなかった。
だが今は、浅野遥と対抗できる自分なりの手段を持っている。
小山千恵子は落ち着いて穏やかに口を開いた。「浅野社長、反対の理由をお聞かせいただけますか?」
浅野遥の細長い目に光が宿り、表情には温かみが一切なかった。
「小山お嬢さんの企画案は確かに素晴らしいものですが、あなたはただのデザイナーで、経験も浅く、会社経営にも経験が不足しています。現在好調なこの事業が、あなたの手で同じように維持できるという保証はありません」