寺田は目を動かし、数歩横に避けた。「桜井秘書」
桜井美月は歯ぎしりするほど腹が立ったが、表面上の穏やかさを保たざるを得なかった。
「寺田補佐、よそよそしくしないで。私のことは浅野夫人と呼んでください。その方が慣れています」
小山千恵子はようやく顔を上げ、華やかな装いで入ってきた女性と、机の上の見慣れた茶封筒を見た。
「桜井秘書、こんにちは。何かご用でしょうか?」
小山千恵子は平然と声を掛け、自然に封筒を受け取って開けると、懐かしい小麦の香りとラテの香りが漂ってきた。
田島さんの卵サラダサンドイッチだった。シンプルだが、彼女の大好物だった。
コーヒーはまだ温かく、千恵子は蓋を開けて納得の笑みを浮かべた。
ダブルショットのラテ、田島さんは何もかも覚えていた。
千恵子は遠慮なく、朝食をゆっくり楽しもうと思い、コーヒーを一口すすって自然に言った。「寺田補佐、ご苦労様です。浅野社長によろしくお伝えください」