翌日の早朝、浅野武樹は身支度を整え、玄関で襟元を直していた。
田島さんは台所から顔を覗かせ、手早くサンドイッチとコーヒーを包み、手提げ袋に入れた。
「浅野若様、朝食はお好きなサンドイッチです。お持ちになりませんか。」
浅野武樹は目を上げ、見慣れたワックスペーパーに包まれたサンドイッチが、すでに田島さんによってきちんとクラフト紙袋に詰められているのを見た。
「もう一つ包んで、コーヒーはラテで。」
何かに取り憑かれたように、浅野武樹はまた田島さんにもう一つ包むよう頼んだ。まるで慣れているかのように。
田島さんは一瞬固まった。
かつて小山お嬢さんがいた頃、彼女は寝坊が大好きで、外の朝食は好まなかった。浅野若様はよく彼女のためにもう一つ包んでもらい、車の中で一緒に食べていた。
浅野武樹はネクタイを締め、二つの紙袋を受け取って出かけようとした。
「武樹、ちょっと待って。」
桜井美月は最新のシャネルのスーツを着て、限定バッグを持って、階段を急いで降りてきた。
浅野武樹は足を止めたが、振り向かなかった。「何かあったの?どこかに行くなら、運転手に送らせる。」
桜井美月は驚いたふりをして笑った。「あら、お父様から聞いてないの?今日から、会社でお父様のお手伝いをすることになったの。」
浅野武樹の表情が暗くなり、冷たい目つきになった。
彼女が浅野家で何の手伝いをするというのか?
小山千恵子が浅野家に加わったばかりで、桜井美月も来たということは、その意図は明らかすぎる。
浅野武樹は眉をひそめ、目に嫌悪の色が浮かんだ。
もし桜井美月が彼を監視するつもりなら、それは本当に失望させられることだ。
桜井美月は靴を履き、浅野武樹の手にある二つの朝食を見て、笑顔を見せた。
「武樹、やっぱり知ってたのね、私が浅野家に行くことを?そうじゃなければ、私の分の朝食を持ってきてくれるはずないわ……」
浅野武樹は手の中の袋を見下ろした。彼にはよくわかっていた。それは小山千恵子の分だということを。
桜井美月が手を伸ばそうとするのを見て、浅野武樹は無言のまま、長い手を伸ばして袋を反対の手に持ち替え、桜井美月から遠ざけた。
田島さんは別の袋を持って急いで近づいてきた。「奥様、朝食をお包みしました。」