京極社長は細かいことにうるさいが、バカではない。
浅野社長が提示した高額は魅力的だったが、京極社長はビジネスマンだ。
放送権は現金よりもずっと価値がある。
彼のチームがヨーロッパと長い間交渉を続けても進展がなかったのは、放送代理権がすでにシルバースターレーシングチームに取られていたからだ。
京極社長はグラスの酒を豪快に飲み干し、コップをテーブルに置いて「パン」という音を立てた。「小山会長は話が早い。次の交渉は私が直接チームに伺います。ただ、浅野社長には申し訳ありませんが、ビジネスの世界では先着順というものがありますからね。浅野社長もご理解いただけると思います」
浅野武樹は多くを語らず、グラスを上げて合図すると、京極社長は手をこすりながら立ち去った。
小山千恵子は長いため息をつき、ペリエのボトルを開けて半分ほど飲んだ。