浅野武樹はゴルフ場に着いたが、少し上の空だった。
この数日間、彼は小山千恵子のことを考えずにはいられず、記憶の中から何か手がかりを見つけようとしていた。
しかし、何も見つからないほど、彼の心はますます落ち着かなくなった。
以前なら、女性に振り回されるような感覚を嫌っていたはずだ。
でも小山千恵子は違う。彼女のことを考えると、心の中に何とも言えない満足感が湧いてくる。
まるで失くして再び見つけた宝物のように。
浅野武樹は物思いに耽りながらクラブを握り、打とうとしていた。そばのキャディは言いたそうにしていたが、浅野武樹が数球打ってから、やっと口を開いた。
「浅野社長、グローブをお付けになっていませんよ。お手を傷めないようにご注意ください」
浅野武樹は我に返り、自分のグローブがまだ脇に置いてあるのを見た。