浅野武樹が別荘の玄関を開けると、埃が舞い上がり、彼は目を細め、息を止めた。
広々としたホール、前方にキッチン、東側に応接室、北西の角には裏庭へ続く小さな扉があった。
この場所は覚えていないのに、これらの細部は鮮明に記憶していた……
小山千恵子は、浅野武樹が1階にほとんど留まらず、むしろ急ぎ足で階段を上っていくのを見ていた。
「何をするの?」
木製の階段がきしむ音を立てた。この場所は長い間誰も来ていなかったため、彼女は思わず浅野武樹の安全を心配した。
しかし男は聞こえていないかのように、急いで上階へ向かった。小山千恵子は後を追いながら、浅野武樹が何かを呟いているのを聞いた。
「展示室は、上にある。」
小山千恵子の心が震えた。
彼は全て覚えていたのだ。
記憶の中では思い出せなくても、体が本能的に導いていた。
小山千恵子は慎重に浅野武樹の後ろについて行きながら、バッグの中から展示室のドアの鍵を探していた。
しかし、ドアの前に立つと、彼女は立ち止まった。
そうだ、以前ここで襲撃された時、ドアはあの暴漢たちに壊されていたはずだ。
目の前の、周囲の荒廃した環境とは不釣り合いな真新しいドアは、一体どういうことなのか。
浅野武樹はドアの前で動かずに立っていた。記憶が潮のように少しずつ脳裏に戻ってくるのを感じていた。
小山千恵子は数歩前に出て、ドアの暗証番号ロックを見て困惑した。
この場所は長い間放置されていたのだから、誰かが侵入しても不思議ではない。
でもここだけに自分のロックを取り付けるのはおかしい。この別荘自体がこの展示室よりもずっと価値があるはずなのに。
小山千恵子が鍵屋に電話しようとした時、浅野武樹が手を伸ばして彼女を止め、低く、かすかな声で言った。
「私がやってみる。」
小山千恵子は眉を上げ、携帯を収めながら、男が暗証番号ロックに手を伸ばすのを驚きの表情で見つめた。
彼女には強い予感があった。
これは全て、記憶喪失前の浅野武樹がしたことなのだろうか?
その瞬間、小山千恵子はドアの向こう側の光景を見るのが怖くなった。
浅野武樹は眉をひそめながら、一連の数字を入力した。
ピッ——
暗証番号が間違っていて、ドアは開かなかった。
小山千恵子の心が沈んだ。
浅野武樹は手を引き、長い指を無意識に擦っていた。