浅野武樹が別荘の玄関を開けると、埃が舞い上がり、彼は目を細め、息を止めた。
広々としたホール、前方にキッチン、東側に応接室、北西の角には裏庭へ続く小さな扉があった。
この場所は覚えていないのに、これらの細部は鮮明に記憶していた……
小山千恵子は、浅野武樹が1階にほとんど留まらず、むしろ急ぎ足で階段を上っていくのを見ていた。
「何をするの?」
木製の階段がきしむ音を立てた。この場所は長い間誰も来ていなかったため、彼女は思わず浅野武樹の安全を心配した。
しかし男は聞こえていないかのように、急いで上階へ向かった。小山千恵子は後を追いながら、浅野武樹が何かを呟いているのを聞いた。
「展示室は、上にある。」
小山千恵子の心が震えた。
彼は全て覚えていたのだ。
記憶の中では思い出せなくても、体が本能的に導いていた。