道中、小山千恵子は新しい生地を嬉しそうに撫で、袖の縫い目を注意深く見つめていた。
ウィリアムは、新しいおもちゃを手に入れた子供のような彼女を見て、少し面白そうに言った。「そんなに触っていたら、布地から火花が出るぞ」
小山千恵子は彼を睨みつけた。「あなたには分からないわ。新しい生地の素材は、不可能だと思われていたデザインを可能にするの。ただの一着の服以上の意味があるのよ」
ウィリアムは納得したように頷いた。彼は元プロのモデルで、途中からデザイナーになった身だった。家族の事業支援のおかげで、ファッション界の頂点に立つことができたのだ。
しかし最近の付き合いを通じて、小山千恵子は生まれながらのデザイナーだと分かった。
どんなデザインが市場に受け入れられるかということよりも、彼女が気にかけているのは常にデザイナー自身と業界の未来だった。