小山千恵子と浅野武樹は展示センターの入り口に入ると、藤原社長は遠くから軽く頷いただけで、気を利かせて立ち去った。
小山千恵子は展示会を適当に見ながら、真剣な表情で眉をひそめている浅野武樹を横目で見ていた。
記憶喪失になってから、彼はまだここをじっくり見ていないようだった。
ある学生が展示を見ていて足元に気を付けず、浅野武樹の背中に突然ぶつかり、慌てて謝った。「申し訳ありません、前を見ていませんでした。」
浅野武樹は頭痛で耳鳴りがし、大きな体がふらつき、壁に手をついて支えた。
小山千恵子は驚いた表情を見せた。浅野武樹がなぜ突然このような状態に?
男は手を振って「大丈夫だ」と言った。
この場所にはあまり来なかった。というのも、ここに来るたびに良い気分にはならず、頭痛がしたり気分が落ち込んだりした。唯物論者でなければ、この場所に何か問題があるのではないかと思うほどだった。
しかし今回、小山千恵子と一緒に来て初めて分かった。この場所の一つ一つが、彼の脳内で騒ぎ立て、忘れられた記憶を思い出させようとしているのだと。
小山千恵子が近寄り、ティッシュを差し出した。「浅野社長、具合が悪いようでしたら、すぐに帰りましょうか。」
浅野武樹は首を振り、薬箱を取り出して開け、応急処置として薬を飲もうとした。
小山千恵子の脳裏にいくつかの光景が浮かび、焦って薬箱を奪い取り、動揺を隠せない様子で「どんな薬か、見せてください!」と言った。
パッケージも錠剤も、かつて浅野武樹に幻覚を引き起こし、依存から抜け出せなくなった薬にそっくりだった!
普通の解熱鎮痛剤だと分かると、小山千恵子は少し気まずそうに薬箱を返した。「すみません、水を取ってきます。」
浅野武樹は薬を飲み込み、薬箱をしまいながら、平然とした表情で探るような目で「私が薬物依存だったことを知っているのか?」と尋ねた。
小山千恵子は思わず「しまった」と思った。本能的な反応が理性に勝ってしまい、思わず頷いてしまった。「はい、それが記憶障害の原因の一つかもしれません。」
適当にごまかそうと思っていたのに、浅野武樹の目が輝き、小山千恵子が見たことのないような執着の光を放った。
「あの時、私の側に子供がいた。話せない子供だった。会ったことがあるか?」
小山千恵子は一瞬呼吸を忘れ、その場で固まってしまった。