小山千恵子の住むマンションは浅野グループから遠くなく、中心地でもない場所にあり、この時間帯には住人のほとんどが休んでいた。
静かなマンション内で、スポーツカーのエンジン音が特に目立った。
千葉隆弘は車のスピードを落とし、ゆっくりとマンションの前まで運転した。
「先に上がって。車に食べ物と飲み物を持ってきたから、後で持って行くよ」
小山千恵子は疲れ果てていて、頷いて、レザージャケットを纏ったまま玄関に入った。
浅野武樹は車で遠くから後をつけ、しばらくすると部屋の明かりが灯るのが見えた。
黒いランボルギーニは長く留まることなく、アクセルを踏んで玄関から離れていった。
浅野武樹は車を止め、珍しく目元に悩ましい表情を浮かべた。
自分は何をしているのだろう……
この女がどこに行こうと、誰と一緒にいようと、自分とは何の関係もないはずなのに。