第235章 小山千恵子は妊娠したことがあるのか

小山千恵子の住むマンションは浅野グループから遠くなく、中心地でもない場所にあり、この時間帯には住人のほとんどが休んでいた。

静かなマンション内で、スポーツカーのエンジン音が特に目立った。

千葉隆弘は車のスピードを落とし、ゆっくりとマンションの前まで運転した。

「先に上がって。車に食べ物と飲み物を持ってきたから、後で持って行くよ」

小山千恵子は疲れ果てていて、頷いて、レザージャケットを纏ったまま玄関に入った。

浅野武樹は車で遠くから後をつけ、しばらくすると部屋の明かりが灯るのが見えた。

黒いランボルギーニは長く留まることなく、アクセルを踏んで玄関から離れていった。

浅野武樹は車を止め、珍しく目元に悩ましい表情を浮かべた。

自分は何をしているのだろう……

この女がどこに行こうと、誰と一緒にいようと、自分とは何の関係もないはずなのに。