あっ。
小山千恵子は目の前が真っ暗になった。謝罪もまだ始まっていないのに、火薬の匂いが漂い始めた。
彼女はこっそりと浅野武樹の硬い腕をつついた。すると、男は本当にそれ以上追及しなかった。
受付は冷や汗を流していた。朝一番から浅野グループの浅野社長を怒らせてしまうとは思いもよらなかった。
以前、社長室から会議の予約が入った時も、浅野社長が来るとは聞いていなかったのに……
たかが一本部長に、少し待ってもらうくらい、何が悪いというの!
まさか浅野社長という大物が現れるなんて、誰が知るっていうの。
代表が事務所から文句を言いながら出てきた。「私のコーヒーはまだか。もう仕事をする気がないのか——」
パーティションの向こうに回ると、代表は入り口に立っている浅野武樹を一目見て、顔面蒼白になった。「あ、浅野社長!ご連絡もなしにいらっしゃるとは。こちらへどうぞ!」
また一人、冷や汗を流す代表を見て、小山千恵子は内心で笑った。
外回りの初日から、こんなに見事に地雷を踏むとは思わなかった。
浅野武樹は長い脚で後に続き、両手を組んで、無意識に指輪を回していた。
小山千恵子は心の中でこのデザイン事務所に蝋燭を立てた。
今回は完全に浅野武樹の怒りを買ってしまった。
小山千恵子の予想に反して、男は会議室に入っても怒りを爆発させず、彼女に続けるよう手で示した。
小山千恵子は誠実に切り出した。「本日は昨日の契約の件について、御社に謝罪に参りました。今朝お届けした謝罪状は既にお受け取りいただいていると思いますが、その中には浅野グループからの問題解決案も含まれております。」
代表は気まずそうな表情を浮かべ、何度も笑いを取り繕った。「はい、確かに受け取りました。小山本部長にはご足労をおかけしました。」
その手書きの手紙は確かに届いていたが、彼はそれをコースターとして使っただけで、一目も読んでいなかった。
この機会に浅野グループから多くのスポンサー料と資金を搾り取ろうと思っていたのに、まさか大失態を演じることになるとは。
小山千恵子は礼儀正しく微笑んだが、目には笑みは宿っていなかった。静かな声で続けた。「もし解決案についてご異議がなければ、浅野グループからのお気持ちをお受け取りいただき、御社の今後のご発展をお祈りいたします。」