あっ。
小山千恵子は目の前が真っ暗になった。謝罪もまだ始まっていないのに、火薬の匂いが漂い始めた。
彼女はこっそりと浅野武樹の硬い腕をつついた。すると、男は本当にそれ以上追及しなかった。
受付は冷や汗を流していた。朝一番から浅野グループの浅野社長を怒らせてしまうとは思いもよらなかった。
以前、社長室から会議の予約が入った時も、浅野社長が来るとは聞いていなかったのに……
たかが一本部長に、少し待ってもらうくらい、何が悪いというの!
まさか浅野社長という大物が現れるなんて、誰が知るっていうの。
代表が事務所から文句を言いながら出てきた。「私のコーヒーはまだか。もう仕事をする気がないのか——」
パーティションの向こうに回ると、代表は入り口に立っている浅野武樹を一目見て、顔面蒼白になった。「あ、浅野社長!ご連絡もなしにいらっしゃるとは。こちらへどうぞ!」