第267章 もがく獲物こそ面白い

めまいがして、小山千恵子は全身が冷え切っていた。我に返ると、心が沈んだ。

どうしてこんな時に病気になってしまったのだろう。

白血病が治った後、優子を産み、ずっと療養生活を送っていた。

職場に復帰し、特にサラリーマンになってから、こんなにも体力が持たなくなっていることに気づいた。

サラリーマン生活なんて、人間らしい生活じゃないよね。

小山千恵子は引き出しを開け、解熱剤を取り出して飲み込んだ。

若手社員たちも目を覚まし、慌ただしく薬や食べ物を探し始めた。

小山千恵子は熱いお茶を一杯飲み、上着にくるまり、全身の寒気と震えを抑えながら、落ち着いた声で言った。「大丈夫よ。みんな自分の仕事に戻って。今日は会社にいないから、何かあったら、いつも通り電話してね。」

屋上の風が冷たすぎたのか、それとも徹夜で体力を使い果たしたのか、この風邪は突然激しく襲ってきた。小山千恵子はこんなに体が弱ったのは久しぶりだった。

しかし、目の前に山積みの仕事があり、彼女が少しでも遅れれば、間に合わなくなってしまう。

藤原晴子はすでに主要メディアの連絡先を送ってきており、小山千恵子は関係の良い数社を選んで、事前に世論対策の原稿を送った。

効果は保証できないが、少なくとも人事を尽くしてこそ、天命を待つことができる。

小山千恵子は吐き気を抑えながら朝食を少し口にした。薬が効き始め、高熱は少し下がり、薄化粧で整えた顔からは病気の様子は見えなくなっていた。

戸田さんは心配そうに立ち上がった。「本部長、本当に外回りに行くんですか?体が心配です!」

小山千恵子は荷物を整理しながら、軽く笑って言った。「大丈夫よ。みんなもう少し頑張って。この件が片付いたら、三日間の振替休暇を一括申請するから。」

「本部長万歳!」

「良心的な資本家!」

小山千恵子は笑いながら首を振り、オフィスを出ながら浅野武樹に電話をかけた。

電話はすぐに繋がり、向こうから馴染みの冷たい声が聞こえた。「はい?」

小山千恵子は時計を見た。八時五分過ぎ、今から一番遠いデザイン事務所に行けば、ちょうど良い時間だ。

「社長、車の手配をお願いします。今から外回りに行きます。」

浅野武樹は会議の合間のようで、周りは静かだった。彼は多くを語らず、「わかった。専用エレベーター前で待っていて。」と言った。