第266章 千恵子、君は私に借りがある

浅野武樹はかえって一瞬戸惑った。小山千恵子がこんなにあっさりと承諾するとは思わなかったのだ。

しばらく考えた後、浅野武樹はため息をつき、視線を逸らした。「この恩は覚えておいてもらう。いつか、無条件で私の一つの要求に応えてもらうということで」

小山千恵子は深く考えずに頷いた。「はい」

これまでの数年間の苦労から得た教訓があるとすれば、それは起きていないことに悩まないということだった。

来るものは拒まず、なんとかなるさ、という考えだ。

浅野武樹は悠然と椅子に座り直し、積み重なった書類の処理を始めた。「方針が決まったので、小山本部長をお見送りする必要はないでしょう。桜井美月の残した混乱を上手く処理できると信じています」

小山千恵子が社長室に戻ると、社員たちは既に食事を済ませ、再び残業を始めていた。