浅野武樹は慎重に言葉を選んで口を開いた。「私たち――」
「おじいちゃん、まだ上がってないんですか?」
隣のおじいちゃんはにこにこしながら「若い人と少し話してたんだよ。野菜を二品持ってきたんだ」
小山千恵子は足早に近づき、頬を赤らめ、少し息を切らしながら「ありがとうございます。早く上がってください」
おじいちゃんは浅野武樹を一瞥し、小山千恵子は察して「あ、この方は私の上司で、ついでに送ってくれただけです」
浅野武樹は眉をひそめ、反論したいのに何も言えなかった。
元妻?
今や彼は会社の上司に過ぎない。
エレベーターの中で、おじいちゃんはにこやかに話を続けた。「小山さん、千葉家の若い人、最近来てないけど、二人はうまくいってるの?」
小山千恵子は目の前が真っ暗になり、息が詰まりそうになった。