第272章 結婚は偽りだった!

浅野武樹は慎重に言葉を選んで口を開いた。「私たち――」

「おじいちゃん、まだ上がってないんですか?」

隣のおじいちゃんはにこにこしながら「若い人と少し話してたんだよ。野菜を二品持ってきたんだ」

小山千恵子は足早に近づき、頬を赤らめ、少し息を切らしながら「ありがとうございます。早く上がってください」

おじいちゃんは浅野武樹を一瞥し、小山千恵子は察して「あ、この方は私の上司で、ついでに送ってくれただけです」

浅野武樹は眉をひそめ、反論したいのに何も言えなかった。

元妻?

今や彼は会社の上司に過ぎない。

エレベーターの中で、おじいちゃんはにこやかに話を続けた。「小山さん、千葉家の若い人、最近来てないけど、二人はうまくいってるの?」

小山千恵子は目の前が真っ暗になり、息が詰まりそうになった。