病院を出るとき、小山千恵子は少し良くなったと感じた。
熱が下がったのか、それとも浅野武樹が記憶を取り戻したことに驚いたのか、今は頭がとても冴えていた。
小山千恵子は渋々車に乗り込んだ。二人の間の雰囲気は非常に微妙だった。
浅野武樹は何度も助手席に視線を向け、喉仏を動かしたが、結局何も言い出せなかった。
聞きたいことは山ほどあったが、どこから切り出せばいいのか分からなかった。
さらには、本当に真実と向き合う準備ができているのかも分からなかった。
小山千恵子も黙って窓の外を見ていた。表面上は平静を装っていたが、心の中は波が荒れていた。
思い出というものは、ドミノのようなものだ。
一度少しでも思い出すと、多くの断片が次々と広がっていく。
彼女には分かっていた。浅野武樹はすぐに全てを思い出すだろうと。